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決壊 [書]

決壊〈上〉 (新潮文庫)

決壊〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: 平野 啓一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/05/28
  • メディア: 文庫

決壊〈下〉 (新潮文庫)

決壊〈下〉 (新潮文庫)

  • 作者: 平野 啓一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/05/28
  • メディア: 文庫

決壊という世界のリアルさ、構造は非常に完成度が高い。しかし読後感は決していいものではないので人に勧めやすい本ではないと思う。

この作家、平野啓一郎という人は天才肌ではなく、すごい勉強家という印象を持った。この決壊という世界を構成する要素は多岐にわたる。9.11やイラク戦争という国際的な問題から、少年犯罪、犯罪報道におけるメディアの問題、そしてネット上におけるプライバシーや暴力性などそれら一つ一つが非常に精緻に描かれている。だからリアリティを感じ、悪魔の存在がリアリティの対極として浮き上がる。


人は利己的な動物であり、利他的であるのはそうすることが自己に有利に働くという利己的行動の結果である。人に優しくするのはそうすることで自分が気持ちよくなれるからという利己的満足を充足するためのものである。って行動経済学の本で読んだことがある。

自分にとって大事なものや人というのは自己と一体化しているものが多い。
ある日、健康診断で病気を宣告されて初めて健康というものの価値に気づく。
震災によって自分のことを心配してくれる人が自分にとってかけがえのない人だと気づく。
危機に直面して初めてそういうものに気づく。

本書の中で、主人公の弟が悪魔に裁かれるシーンがある。
私は悪魔に直面した時の弟の言葉に違和感を感じた。

自分の命が大切ならば命乞いをしただろう。そうしないのは本当に彼が家族を愛しているか、自己のプライドを守るためくらいしか思いつかない。
死を直前にしてプライドって弱い気がする。誰かに見られているわけでもないし、そんな危機的状況に周りのことに気が回るはずがない。

だから、みっともなく命乞いをするか、自分の本心をいうかどちらかしかない。
彼は後者だった。「家族を愛している」などと言えるのは彼が生きているから言えることであり、死んでしまったら意味のないことである。仮に命乞いをして救われたとしたら、その時初めてその言葉が出てくるのではないか?

その不合理性こそが人間なのだよと言われればそうだろうと思うが、本書の中であの瞬間こそ最も光り輝いた一瞬であるとすれば、それはまた悪魔と同等の極点だと私は思う。


葬式というものは、死によって故人が自分と同一の世界から分離し外部化されたという事実を確認する行為の集合である。その中で故人との最後の言葉は自己の中で内部化していた故人を外部化することそのものである。


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